「今こそ取り戻そう、本当の『絆』」SEALDs・学者の会主催 街宣行動 「GIVE PEACE A CHANCE:未来を選びとる」スピーチ用メモ(新宿アルタ前、2016年3月13日)

 東日本大震災から11日で5年が経過しました。あの大震災が起きた直後、「絆」という言葉が日本中を飛び交いました。私は正直言って「絆、絆」と連呼されるのがうっとうしかったし、被災者やその人たちを支援する人たちにとっても絆の強制は負担になるのではないか、と考えて、「絆」という言葉を控えるよう、呼びかけていました。ことさらに「絆」などと言われなくても、私たちには自然に手を取り合う気持ちや困っている人に手をさしのべるやさしさはちゃんと備わっている、という自信もありました。

 しかしその後、「絆」という言葉はあっという間に消えて行き、いつのまにかそれにかわって「自立」という言葉が強調されるようになってきました。

 この3月10日に行われた安倍総理の記者会見でも、福島の酪農家のひとりが「一日も早く福島が自立して、真っ向勝負ができるよう頑張っていきたい」と語った、という言葉が紹介されたあと、今後5年間を被災地の自立につながる支援を行う「復興・創生期間」と位置づけることが発表されました。

 「自立」という言葉は聞こえはいいけれど、これは単に「もう国や社会には頼らず、自分の責任で勝手にやって」という自己責任に基づく切り捨てなのではないでしょうか。実際に、政権与党である自民党のホームページには、「自民党社会保障政策は、まず自助・自立が基本です。個々人が国に支えてもらうのではなく、額に汗して働く人が報われる社会を目指しています」と明記されています。

 大震災や原発事故の被災者が入居している仮設住宅も、これまで使用の期限が延長されてきましたが、いよいよ来年3月で閉鎖されることが決まっています。その人たちは「自立を」と言われて、いったいどこに行けばよいのでしょう。福島第一原発20キロ圏内の楢葉町は、昨年、避難指示が解除されましたが、放射能や生活への不安からいまだに帰還した人は9%にしかすぎません。町に戻って生活インフラも整わない中で生活する人、帰りたくても帰れずに避難を続けている人に、誰が「自立せよ」などと言うことができるのでしょう。

 これは、大震災や原発事故の被災者に限ったことではありません。

 昨年、発表された厚労省による国民生活意識調査でも、「生活が苦しい」と感じている世帯が62・4%で過去最高に上りました。中でも、「大変苦しい」と答える人が急増しており3割を占めています。

 これで、どうして「景気はゆるやかな回復基調にある」「アベノミクスは成功した」などと言うことができるのでしょうか。

 それでも安倍総理は、この3月7日の予算委員会で、「アベノミクスは失敗していません。企業の倒産件数は民主党政権時代より3割近く減少している」と特定の数字だけを強調して自分の責任を認めようとせず、国民に「自立」を迫ろうとしているのです。

 そんな中で、福島でもそれ以外でも、人と人との絆は強まるどころか、あちこちで分断、切断が起きています。「自立」という名で弱い人たちを切り捨て、「一億総活躍」という名で国民をマシンのように働かせる安倍政権は、「絆分断政権」だと私は思っています。とくに許せないのは、戦後、私たちがずっと大切にしてきた憲法と私たち国民との絆、平和と私たちとの絆を断ち切ろうとしていることです。

 こんな無責任な政権があったでしょうか、こんな無慈悲な総理がこれまでいたでしょうか。
 
 しかし、希望のタネもあちこちにまかれています。

 昨日、中野ではひとりの女子高校生が「戦争をしない政治を求めるデモ」を計画して実行し、なんと700人もの人びとが集まりました。

 また今日、大阪、福岡、郡山で、ヘイトスピーチの常連者による集会や街頭演説が行われていますが、抗議のために多くの人たちが集まり、プラカードを掲げて反対の意思を示しています。

 そして、本日もこうして日曜のアルタ前に、年齢、性別、世代を超えた多くの人たちがやって来ています。

 海外に目を向けても、アメリカ共和党の大統領候補であるドナルド・トランプ氏の移民政策をめぐる人種差別的な発言に抗議する人たちが声をあげ、シカゴではついに集会じたいが中止になりました。

 5年前、国やマスコミから強制された「絆」にはうっとうしさや押しつけがましさを感じた私ですが、いまはじめてこうして自発的に結ばれていく「絆」の大切さ、しなやかさや強さに希望の芽を見ています。大勢とひとりが、ひとりとひとりが、もしかするとアメリカや中国や中東諸国の誰かと私たちが、手を取り絆を結ぶときがやって来たのだと思います。 

 野党もようやくお互いの壁を壊し、絆を作ろうとしています。

 以前は大嫌いな言葉だったけど、いまなら私は大きな声で言えます。みなさん、「本当の絆」を取り戻しましょう。そして、いっしょに力強く未来を紡ぎ出して行きましょう。